東京高等裁判所 平成7年(ネ)4496号 判決 1997年1月30日
東京都文京区千石一丁目六番二四号 徳川マンション八〇一号
控訴人
伊藤誓英
右訴訟代理人弁護士
藤田謹也
同
土居久子
東京都世田谷区船橋一丁目五番八号
被控訴人
有限会社ペスカ
右代表者代表取締役
小峯淳
右訴訟代理人弁護士
細田貞夫
主文
一 原判決を取り消す。
二 控訴人が、別紙商標目録記載の商標につき、商標登録出願により生じた権利を有することを確認する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
控訴人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
第二 事案の概要
事案の概要は、原判決二頁八行ないし一一頁八行のとおりであるから、これを引用する。
第三 当裁判所の判断
一 本件各争点を判断する前提として、本件の紛争に至る事実経過についてまず検討する。
前記争いのない事実に、成立に争いのない甲第一〇号証、同第一二号証、同第一三号証の一・二、同第二〇号証の一ないし三、同第二五号証、同第二八号証の二ないし四、同第二九号証の二、同第三五号証、乙第一号証、同第二号証の一・二、同第三号証の一ないし八、同第四号証、同第八号証、同第九号証、同第一一号証、同第一五号証の一・二、同第一七号証の二ないし六、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九号証、乙第七号証の一の三、同号証の二の三、同第一〇号証、控訴人本人尋問の結果(原審)により成立の認められる甲第七号証、同尋問の結果(原審)により原本の存在及び成立が認められる甲第一五号証、同第一六号証、被控訴人代表者尋問の結果(原審)により成立の認められる乙第一六号証の一、同尋問の結果(当審)により成立の認められる乙第二八号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一八号証、同第一九号証、控訴人本人及び被控訴人代表者各尋問の結果(原・当審)、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 控訴人は、電気製品及びその部品の輸出等を目的とするフューチャー社を経営していたが、新たに食品の輸入販売会社を設立することを企図し、平成四年六月中旬ころ、大学時代からの友人である小峯に右会社の共同経営を持ち掛け、両者は、新会社を設立して共同して右事業を経営することとなった。
同年七月初めころ、控訴人と小峯は、控訴人が海外出張の土産として持ち帰った本件商品に目を付け、これを新会社における主力商品とすることとし、新会社の設立手続と並行して、本件商品の販売元であるシンガポールの訴外スーパー・コーヒーミックス社(「スーパー社」)との輸入取引の交渉を開始した。
2 控訴人と小峯は、本件商品の名称を「トムヤムヌードル」あるいは「トムヤンラーメン」とするとともに、これらを商標登録しようと考え、控訴人がその出願手続を進めることとなった。
控訴人は、被控訴人の設立登記に先立ち、平成四年七月二〇日に第一商標について、また翌二一日に第二商標について相次いで商標登録の出願(本件出願)を行ったが、いずれも自己が商標登録出願人となった。
なお、右商標登録願書には、控訴人が指定商品の販売を開始すべく準備中であり、平成四年七月に販売会社を設立する予定である旨の事業計画書が添付されていた。
3 本件出願後の平成四年七月三一日、魚介類製品の輸出入・販売等を目的とする被控訴人の設立登記がなされた。そして、被控訴人に対する出資口数六〇口(資本総額三〇〇万円)のうち、小峯が三一口(一五五万円)を、控訴人が二九口(一四五万円)をそれぞれ出資し、小峯が被控訴人の代表取締役に、控訴人が取締役に就任したが、設立登記直後、貸付金の名目で被控訴人から小峯に対し右一五五万円全額が、また控訴人に対し一〇〇万円がそれぞれ返還され、当座の運転資金は控訴人が負担した。
また、被控訴人の本店事務所はフューチャー社内におかれ、被控訴人の業務の遂行にあたっては、フューチャー社の社員が事務を行い、同社の設備が利用された。
4 控訴人は、被控訴人の設立登記手続費用や本件商品のサンプル購入費用等とともに、本件出願費用(本件商標の出願用特許印紙代及び出願用紙代)三万四六〇〇円を当初支払っていたが、平成四年八月二八日、被控訴人からこれらの費用全額の支払いを受け(被控訴人の帳簿では「立替清算」として処理されている。)、これと引換えに、右出願用特許印紙代や出願用紙代等の領収証を被控訴人に交付した。
そして、被控訴人の帳簿では、本件出願費用は設立登記手続費用等とともに被控訴人の設立費用として扱われ、右設立費用については控訴人と小峯が出資割合に応じて負担することとなり、小峯は平成四年九月二一日に、控訴人は平成五年二月二六日に、それぞれ各負担分を被控訴人に支払った。
5 被控訴人の設立手続に並行して進められたスーパー社との取引交渉がまとまり、平成四年八月一日付けで被控訴人とスーパー社の間で本件商品に関する独占代理店契約書が交わされたが、同年九月二一日には、フューチャー社も本件商品の輸入が可能となる条項等を織り込んだ変更契約書が追加して作成された。
6 平成五年五月ころ、控訴人から小峯に対し、被控訴人の共同経営を解消したい旨の申し入れがあり、話し合いの結果、同年七月三一日をもって共同経営を解消して、小峯が被控訴人の事業を引き続き行い、控訴人は被控訴人の経営から手を引くこととなった。
同年七月末において、被控訴人に対して、フューチャー社は、貸付金・売掛金債権四八〇万七五八九円、控訴人は、給与債権一〇五万円、被控訴人の持分債権一四五万円をそれぞれ有していたが、その返済時期や方法をめぐり、また、小峯が控訴人に対して、被控訴人が有限会社東京流通等に対して有していた回収不能の売掛債権一三三万〇七五八円を控訴人が被控訴人に対する損害賠償として負担するよう要求したことなどから、控訴人と小峯との関係は極めて悪化し、共同経営の解消に伴う処理について、両者が直接会ったり、電話で話し合うというようなこともなく、主に金銭の清算に関して文書でのやりとりが交わされるといった状態であった。被控訴人は控訴人に対して、同年八月三一日付け内容証明郵便をもって、右損害賠償請求債権一三三万〇七五八円及び被控訴人が控訴人に対して有する貸付金債権八四万一五七一円と、控訴人に対して負担している未払給与債務(源泉所得税一三万四五〇〇円を控除した分)とを対当額で相殺する旨、及び右相殺後において控訴人が被控訴人に対して負担する一二五万六八二九円の即時支払いを求める旨を記載した書面を送付したが、控訴人は右のような処理に対して強く反発していた。
被控訴人の相殺処理を考慮せず、被控訴人が控訴人に対して有する貸付金債権を差し引くと、同年一〇月四日当時、控訴人及びフューチャー社が被控訴人に対して有していた債権は六三三万円余であった。
7 小峯は、平成五年一〇月七日、市販の「伊藤」名の三文判を使用して控訴人名義の印鑑変更届を作成し、これを特許庁長官に提出するとともに、翌八日、控訴人が本件商標登録出願により生じた権利を被控訴人に譲渡した旨記載し、右「伊藤」の三文判を押捺した譲渡証書を作成し、これを添付した第一商標及び第二商標についての各商標登録出願人名義変更届を同長官に提出した。
8 小峯は、平成五年一一月二日ころ、控訴人に対し、譲渡証書の見本(譲受人欄に被控訴人の住所と名称、譲渡人欄に控訴人の氏名、及び本件商標の出願登録番号を記載したもの)と譲渡証書用紙(譲渡人欄や譲受人欄等が空白のもの)を送付して、本件商標につき本件出願により生じた権利を譲渡した旨の譲渡証書の作成を要求した。そして、同年一一月五日には、フューチャー社の事務所に赴き、控訴人に直接会って、譲渡証書の作成、交付を要求したが、控訴人に拒絶された。
9 控訴人は、平成五年一一月九日、特許庁長官に第一商標及び第二商標につき各印鑑変更届と住居(居所)変更届を提出したが、平成六年一月五日、先に被控訴人の名義変更届が出されていることを理由に不受理処分とされた。
二 争点1について
1 被控訴人は、平成五年九月末になって、小峯は、控訴人の妻から本件出願が控訴人名義でなされていることを知らされ、同年一〇月四日、控訴人に電話を架け、「本件商標が被控訴人名義になっていないのはどうしたことか。背任罪として告訴も考えられる。」と詰問したところ、「本件商標はもともと被控訴人名義とすべきだったのだから、被控訴人名義とすることについては小峯に一任する。」旨の回答を得た旨主張し、前記乙第一六号証の一、第一八号証、第一九号証、第二八号証、及び被控訴人代表者尋問の結果(原・当審)中には、右主張に沿う記載及び供述部分が存する。
しかし、右記載及び供述部分は、以下(一)ないし(六)、及び前記甲第七号証、同第一〇号証、同第三五号証、控訴人本人尋問の結果(原・当審)を総合すると、たやすく措信することができない。
(一) 控訴人が、本件商標についての商標登録を受ける権利の名義人を被控訴人とすることを許諾したというのであれば、小峯としては、わざわざ市販の「伊藤」名の三文判を使用して控訴人名義の印鑑変更届や譲渡証書を作成するなどといった煩瑣な方法をとることなく、控訴人に対し、譲渡証書の作成、交付を求めることが通常であると考えられるし、平成五年七月以降、控訴人と小峯との関係は、共同経営解消に伴う処理、殊に金銭関係の清算をめぐって極めて悪化していたうえ、被控訴人の相殺処理を別にすれば、同年一〇月四日当時、控訴人及びフューチャー社が被控訴人に対して有していた債権は六三三万円余であり、控訴人はその清算を強く要求していたのであるから、控訴人が右金銭関係の清算約束を得ないで無条件に本件商標の出願人名義を変更することを許諾したとは考えにくい。
右のとおり、平成五年七月以降小峯と控訴人との関係は悪化しており、小峯自身、同年一〇月四日当時、控訴人に対して信頼感を失っていて、控訴人とは顔を合わせたくなかった旨供述しているところであり(原審)、そうであれば尚更、控訴人の許諾があったことを明確にしておくためにも、郵送等の方法によってでも控訴人に対し譲渡証書の作成、交付を求めるのが自然であると考えられる。
(二) 当審における控訴人本人尋問の結果により成立の認められる甲第二七号証、同尋問結果によると、控訴人はかねてより被控訴人の共同経営解消に伴う処理について本件訴訟代理人の藤田、土居両弁護士に相談をしていたところ、平成五年一〇月五日控訴人が右弁護士事務所を訪れ、両弁護士に共同経営解消の処理に伴う相談をしているにもかかわらず、控訴人はその際前日にあったとされる小峯からの本件商標登録出願人名義に関する電話内容について何ら言及していないことが認められ、右電話が実際にあったとすると極めて不自然であると考えられる。
(三) 前記認定のとおり、控訴人と小峯との関係は悪化し、共同経営の解消に伴う処理については文書でのやりとりが交わされているが、それは主に金銭の清算に関してであり、控訴人宛に平成五年一〇月四日に作成され、同月二九日にファックスで送信された「覚え書」(甲第一二号証)にも本件商標のことについての記載はなく、証拠上、本件商標の件に関する文書上のやりとりについて認め得るのは、平成五年一〇月二九日に小峯から控訴人に宛てたファックス(乙第一一号証)の中に、「尚、貴方に於いては、小生より要求してあります「トムヤムヌードル」と「トムヤンラーメン」の商標登録申請書控を忘れられているようですので、至急当方へ送付願います。貴方に頼んでから3ヶ月が経過しますが、これは貴方の引継事項に含まれていた重要な一件ですので至急処理が必要です。ご連絡願います。」とあるのが初めてである。そして、右文面の内容は、被控訴人が主張する、小峯は平成五年九月末になって本件出願が控訴人名義でなされていることを知ったということや、同年一〇月四日に控訴人との間で主張のようなやりとりがあったことを大いに疑わしめるものである。
(四) 小峯は、平成五年一一月二日ころ、譲渡証書の見本と譲渡証書用紙を控訴人に送付して、控訴人に対し、本件商標につき本件出願により生じた権利の譲渡証書の作成を要求し、更に同月五日には、控訴人に直接会って、譲渡証書の作成、交付を要求しているが、小峯が、控訴人より本件商標の出願人を被控訴人に名義変更するについての許諾を得ていて、その手続を一任されていたというのであれば、改めて譲渡証書の作成、交付を要求する必要があるとは通常考えられない。
小峯は、控訴人に対して譲渡証書の作成、交付を要求した点について、名義変更手続はしたものの、予期した以上に審査に時間がかかるということで、この方法で簡単に名義変更がなされるものかと考えるようになり、時間が経てば控訴人の気持ちが変わるのではないかと思ってとか(原審)、そのころ控訴人から被控訴人に対してなされた金銭の要求内容等から不信感を持ち始めたためとか(当審)供述しているが、控訴人に対して譲渡証書の作成、交付を要求したのは、名義変更届を提出してからまだ一ヶ月も経過していないし、小峯の供述によれば、右届出手続等は特許庁の係官の指示に従って行ったというのであるから、右のような不安を抱くというのは納得できないし、一〇月四日当時においてすでに、小峯と控訴人との関係は悪化していて、小峯は控訴人に対して信頼感を有していなかったのであるから、右供述は措信できない。
小峯が控訴人に送付した譲渡証書の見本(甲第一三号証の一)には、小峯が控訴人宛に、「本サンプルの通り、2件分について「譲渡証書」を作成し、11/5金までに当方へ返送願います。当方の都合により11/5金必着ですので宜しく。」と記載していることが認められるが、前記(三)に記載した乙第一一号証のファックスが送信されたのが右譲渡証書の見本等が送付された数日前であることや、右ファックスの文面をも併せ考えると、右記載をもって、平成五年一〇月四日に控訴人が被控訴人主張のような許諾をしていたものと推認することはできない。
(五) 控訴人は、本件商標登録出願人の名義変更届がなされていることを知ったのは、平成五年一〇月中旬ころ、本件出願についての審査結果を確認するとともに住居変更の手続を尋ねようと特許庁に電話した際、係官から教えられたのが最初である旨主張し、前記甲第七号証、同第三五号証、控訴人本人尋問の結果(原・当審)中には右主張に沿う記載及び供述部分が存するが、そうであるならば、直ちに、あるいは、その後譲渡証書の作成、交付を求められた際に、小峯に対し、本件商標登録出願人につき名義変更手続をとっていないかどうかを尋ねる程度のことは行って当然であると解されるのに、そのようなことがあったとは認められない点は不自然であり、右日時ころに名義変更届がなされていることを初めて知ったというのも疑わしいと考えられなくもない。
この点について、控訴人は、特許庁の係官は印鑑変更届、名義変更届が提出されていることは教えたものの、誰に名義変更されているかについては教えなかったので、誰に名義変更がなされたかを具体的に知ることができなかったために、小峯に確認するようなことはしなかったものである旨供述するところ、控訴人は、誰に名義変更されているかを確認するために、平成五年一一月四日と一二月七日に特許庁の情報提供用のコンピュータ「パトリス」に検索の申込みをしていること、しかし、同検索によっても誰に名義変更されているかを知ることができなかったこと(甲第二六号証の一・二)、控訴人は、同年一二月一五日ころ、特許庁の係官に事情を説明して、小峯が特許庁に提出した「商標登録出願人名義変更届」や「譲渡証書」等の写しを入手していること(甲第三一号証の一ないし一〇、控訴人本人尋問の結果(当審))、控訴人が、被控訴人の共同経営解消に伴う処理について相談をしていた本件訴訟代理人の藤田、土居両弁護士に宛てた平成五年一一月一〇日付けファクシミリ(甲第二九号証の一)には、「商標権(ラーメン)の問題で先日特許庁に電話をしたところ誰かが一〇月七日に改印届を又一〇月八日に名義変更届を提出していると言われました。どのように処理すべきか相談したいと思います。」と記載されていることを総合すると、本件名義変更届がなされていることを知ったのは、平成五年一〇月中旬ころであるとする控訴人の前記記載及び供述部分を信用できないものとして直ちに排斥することはできないものといわざるを得ない。
(六) 小峯は、特許庁の係官に事情を説明し、その具体的な指示に基づいて前記一7に認定の手続を行ったものである旨供述しているが、商標登録出願名義人自身から名義変更手続に必要な書類(譲渡証書)が得られない事情がある場合に、特許庁の係官が、当該出願名義人の言い分を聞かずに、一方当事者の説明だけを聞いて、市販の三文判を使用して印鑑変更届をし、その印鑑を使用した譲渡証書を作成して提出すればよいといったようなことを教示するとは通常認め難く、小峯の右供述は措信できない。
2 控訴人は、本件商標は被控訴人だけでなくフューチャー社も使用することが予定されていたものであり、また、控訴人は被控訴人の実際の運営は自己に委ねられていながら代表権を取得しなかったため、自己が考案した本件商標の権利を担保するため控訴人の個人名義で本件出願を行ったものであり、被控訴人から本件出願費用を受領したのは、被控訴人が本件商標を使用する対価として受領したものである旨主張する。
しかし、控訴人がした本件商標の商標登録願には、控訴人が指定商品を開始すべく準備中であり、平成四年七月に販売会社を設立する予定である旨の事業計画書が添付されていたこと、フューチャー社も本件商品の輸入が可能となる条項等を織り込んだ変更契約書が追加して作成されているが、このことから、フューチャー社も本件商標を使用することが予定されていたとまでは認め難いこと、控訴人は、当初支払った本件出願費用相当額の金員を被控訴人の帳簿上は立替清算として被控訴人より支払いを受け、これと引換えに領収書を被控訴人に交付していること、被控訴人の帳簿では、本件出願費用は被控訴人の設立費用として扱われ、控訴人と小峯が出資割合に応じて負担し、支払っていることからすると、控訴人の右主張に沿う証拠はたやすく措信することができない。
右のとおりであって、控訴人の前記主張はたやすく採用することができるものではないが、前記1(一)ないし(六)に説示したところも勘案すると、右の点をもって、平成五年一〇月四日に小峯は、控訴人から、本件商標の出願名義人を被控訴人とすることについて一任された旨の被控訴人の主張事実を認定し得るというものではない。
他に、被控訴人の前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、争点1についての被控訴人の主張は理由がない。
三 争点2について
弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三四号証によれば、特許庁においては、設立登記未了の会社は商標登録出願をすることができない取扱いとなっていることが認められるところ、本件出願時には被控訴人の設立登記が未了であったことから、控訴人名義で本件出願を行ったものとも推認され、そうであれば、被控訴人の設立登記後に本件商標の出願名義人を被控訴人とすることが予定されていたとしても、控訴人が、控訴人名義で本件出願を行い、また、被控訴人から本件出願費用相当額の金員を受領したことをもって、有限会社法七七条の特別背任罪に該当するものとは認め難く、本件証拠上、本件出願人名義が控訴人から被控訴人に変更され、本件商標についての商標登録を受ける権利が控訴人から被控訴人に移転したことが、控訴人の許諾に基づくものとは認められないことを併せ考えると、本件請求が公序良俗に違反する結果を是認する裁判を求めるもの、あるいは信義則に反するものであるとまでは認められない。
したがって、争点2についての被控訴人の主張は理由がない。
四 以上の次第で、控訴人の本訴請求は正当であり、これを棄却した原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法三八六条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
商標目録
一 出願年月日 平成四年七月二〇日
出願番号 商願平4-141369号
商品及び役務の区分 第三〇類
指定商品 即席中華そばのめん、そばのめん、中華そばのめん
出願人 伊藤誓英
名義変更後の出願人 有限会社ペスカ
登録出願商標の構成 別図1のとおり
二 出願年月日 平成四年七月二一日
出願番号 商願平4-142400号
商品及び役務の区分 第三〇類
指定商品 即席中華そばのめん、中華そばのめん
出願人 伊藤誓英
名義変更後の出願人 有限会社ペスカ
登録出願商標の構成 別図2のとおり
別図1
<省略>
別図2
<省略>